島根難病研究所▼平成14年度研究事業報告書

モンゴル国への医療援助ムモンゴル国へ渡航しての小児心疾患に対するカテーテル治療の実践


▼共同研究
  1. 高齢者における痴呆の予知・予防医学に関する研究

  2. 脳波伝播速度を指標とした動脈硬化の進展に影響する因子の解析

  3. 慢性胃炎・胃癌の原因となるHelicobacter pylori(H.pylori)易感染性の個体差に関する研究

  4. 脳血管性白質障害が脳循環自動調整能に与える影響に関する研究

  5. 心血管事故予測因子としての末梢血管内皮機能

  6. 眼底動脈硬化の評価及び予防に関する分子生物学的研究

  7. MRIを用いたステロイド関連大腿骨頭壊死症の病態に関する研究

  8. 脳検診(脳ドッグ)受診者におけるMRI上の潜在病変の意義に関する研究

  9. 老年期痴呆の神経病理学的及び分子生物学的疫学研究

  10. 生活習慣秒予防健診データベースを利用した生活習慣病の危険因子に関する疫学的研究

  11. 健康長寿を目指すための体力医化学の研究

  12. 小児期からの生活習慣病予防に関する研究(小児期からの生活習慣病予防に関するコホート研究の収集データの解析と追跡調査)

▼部門別研究
  1. モデルラットを用いた高血圧、脳卒中遺伝子の同定

  2. 遺伝相談

  3. 脂肪摂取の胃酸分泌に及ぼす影響についての研究

  4. 1)前頭部α波パルス光同調法によるストレス軽減についての検討 2)魚類の活性酸素消去能についての研究−キュウリエソを中心に検討

  5. 脳卒中および脳血管性痴呆の発症機序に関する研究

  6. 高感度心筋トロポニンTによる慢性血液透析患者の心筋障害のスクリーニングとC型肝炎感染と心・血管障害の関連について

  7. 腹圧性尿失禁症例に対するシネMRIによる骨盤底筋体操時の後部尿道膀胱角および膀胱過可動性の評価

  8. モンゴル国への医療援助−モンゴルへ渡航しての小児先天性心疾患に対するカテーテル治療の実践
島根難病研究所 小児難病部門
研究代表者 羽根田 紀幸

1. 研究テーマ:「モンゴル国への医療援助ムモンゴル国へ渡航しての小児心疾患に対するカテーテル治療の実践」

2. 研究者氏名:羽根田紀幸 黒江兼司 野木俊二 上田秀明 矢野宏 富田英 岸田憲二 檜垣高史 古井潤 野原隆彦 P. Enkhsaikhan Y. Orgil

3. 研究概要
モンゴル国は、1990年に社会主義国から自由主義国に移行したが、同国の医療事情は、ロシア式の教育および病院体制を受け継いでおり、各病院が専門性で分化しているのが特徴である。基本的には地区の開業医がまず診察して、地区の中央病院に紹介され、更に困難な症例が首都ウランバートルの国立病院に紹介される。ウランバートルには、国立病院が6つあり、小児の第3次医療機関は国立母子保健センターで、先天性心疾患を持つ小児の診療はこの病院が担当しているが、この分野は著しく立ち後れている。
先天性心疾患の診療は、まずカラードプラー断層心エコー検査を中心とした非侵襲的診断を行い、心臓カテーテル・心血管造影(略して心カテ)検査で診断を確定した後、必要な症例に対しては外科手術が行われ、最近では、動脈管開存や肺動脈弁狭窄といった単純な疾患は、心カテに引き続いて、カテーテル治療(カテーテル・インターベンション)が、先進国では一般的である。
先天性心疾患の診断に不可欠な、カラードプラー断層心エコー装置がモンゴル国に導入されたのは、2000年12月に米国の慈善団体から数年前の型式の機種が寄贈されたのが最初で、現在でもモンゴル全土でこれ1台のみである。モンゴル国立母子保健センターの小児循環器専門医師S. Byanbasurenらが、これを用いて診断を行っており、診断レベルは、日本の小児循環器専門医師に例えれば、レジデントの域に達しているが、経験不足から下した診断に自信が持てず、同国立第3病院(成人の循環器と心臓外科を担当)の心臓外科医師に対して適切なアドバイスができていないのが実情である。また、心エコー装置も5〜30分使うとオーバーヒートする状態である。確定診断に不可欠な心カテは、この病院では行われず、心エコーで手術が必要と判断された場合は、国立第3病院に送られ、この病院で心臓カテーテル・心血管造影検査の後、外科手術が行われるが、小児の病態生理に疎い医師が、成人のための装置や器具を用いて検査を行うために、診断精度が悪く手術成績も極めて不良である。
モンゴル国では、先天性心疾患を持つ子供は、例え極めて単純な病気であっても助からない、というのが一般国民だけでなく多くの医師の共通認識であるので、上記実状はある面では当然のこととして受け止められているが、この意識を改革し、小児循環器診療の向上を目的として、2001年の年度始めにモンゴル国立母子保健センター院長G. Choijamtsから、島根医科大学小児科に留学中のモンゴル人医師P. Enkhsaikhanを介して、本研究部門に、技術指導と援助の依頼が来たのが、本事業のはじまりであった。
本部門では、班長羽根田紀幸医師が日本全国の主な専門医師に協力を呼び掛け、モンゴルのための小児循環器医療団を結成し、心エコーを中心とした診断の指導、治療方針のアドバイス、動脈管開存、肺動脈弁狭窄等カテーテル治療が比較的容易な疾患を実際に治療することにし、平成13年10月に第1回目の渡航を行った。平成14年度は第1回の渡航結果を踏まえて2度の渡航を行った。第1回(通算2回目)は平成14年8月2日に出発し、10日に帰国した。平成13年の初回渡航と同じくモンゴル国立母子保健センターで診療を行った。100名の患者の心エコー診断を行い、その中でカテーテル治療適応と考えられた25名から15名を選抜した。結果的には動脈管開存13名中12名、肺動脈弁狭窄1名、血管内異物除去1名のカテ−テル治療に成功した。動脈管開存1名は血管が太かったので診断カテーテルだけにとどめ、治療はモンゴル国立第3病院の心臓外科チームに依頼した。日程と器材の関係で治療できなかった子供達に治療目的で、第2回目(通算3回目)の渡航は平成12月20日出国、30日帰国の日程で行った。今回は国立母子保健センターと国立第3病院の両方で心エコー診断とカテーテル治療を行った。カテーテルの内訳は、動脈管開存11名と大動脈縮窄1名のカテーテル治療、冠動脈瘻の診断カテーテルであった。国立第3病院はモンゴル国の心臓外科センターの役割を担った病院であり、我々と2つの病院との合同カンファレンスが持てたことは、モンゴル人医師の教育も今後の本事業の主要な目的の1つであり、意義は大と考えられる。動脈管開存は女児に多い疾患で、日本をはじめとした先進国では男女比が1:2〜3といわれているが、モンゴルではカテーテル治療の対象画外も含めると計30名の患者が来院したが、男児はわずかに2名、すなわち男女比は1:15であった。動脈管開存の発症頻度は新生児期の酸素濃度に関係しているが、男女比が大きいことは高地で酸素濃度が薄いことが影響しているのか、過酷な気候によるストレスに対する感受性が男女で差があるのか今後疫学的見地からの共同研究の必要性を感じている。

4. 学会機関誌発表状況
学会発表
1) 黒江兼司、羽根田紀幸、Purevjav Enkhsaikhan. モンゴル国医療見聞ー小児心臓カテーテル治療11日間の滞在にて. 第105 回日本小児科学会. 平成14年4月20日. 名古屋市
2) 羽根田紀幸、黒江兼司、Purevjav Enkhsaikhan. モンゴル国での先天性心疾患に対するカテーテルインターベンションの経験. 第105 回日本小児科学会. 平成14年4月20日. 名古屋市
3) 羽根田紀幸. モンゴル国への医療援助−同国では初めての先天性心疾患に対する渡航カテーテル治療−. 第11回中国四国小児保健学会. 平成14年6月29日. 高知市
4) 羽根田紀幸、黒江兼司、上田秀明、野木俊二、檜垣高史、古井潤、富田英、岸田憲二. 小児心疾患カテーテル治療のためのモンゴル渡航ム3回のまとめム. 第14回日本 Pediatric Interventional Cardiology 研究会. 平成15年1月16〜18日. 吹田市

講演
1) 羽根田紀幸. モンゴル渡航小児心疾患カテ−テル治療. 山口大学医学部同窓会(霜仁会)山陰支部総会. 平成14年7月20日. 浜田市
2) 羽根田紀幸. モンゴル国への医療援助. 出雲ライオンズクラブ例会. 平成14年8月1日. 出雲市
3) 羽根田紀幸. モンゴル国への医療援助の体験. モラロジー出雲支部少年部例会. 平成14年9月15日. 出雲市
4) 羽根田紀幸. 第2回モンゴル渡航小児循環器診療. 第2回モンゴル渡航小児循環器診療帰朝報告会. 平成14年9月22日. 出雲市
5) 野木俊二. モンゴル国における小児心疾患エコー診断の現状. 第2回モンゴル渡航小児循環器診療帰朝報告会. 平成14年9月22日. 出雲市
6) 羽根田紀幸. モンゴル渡航小児循環器診療3回のまとめ. モンゴル渡航小児循環器診療帰朝報告会. 平成15年1月24日. 出雲市
7) 羽根田紀幸. モンゴル渡航小児循環器診療3回のまとめ. 岡山モンゴル友好協会NGO報告会. 平成15年2月24日. 岡山市
8) 羽根田紀幸. 先天性心疾患に対するカテーテル治療とモンゴル渡航小児循環器診療の経験. 隠岐島後医師会平成15年第1回学術講演会.平成15年3月13日. 隠岐郡西郷町

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