島根難病研究所 遺伝体質部門 大谷 班
研究代表者 大谷 浩
1.研究テーマ(1):遺伝相談
2.研究者氏名:大谷 浩、橋本龍樹
3.研究概要:定期的に行われる難病相談において、本年度は遺伝疾患に関する相談がなかった。
1.研究テーマ(2):ヒトおよび実験動物における先天異常に関する研究 「ヒト十二指腸の発生における閉鎖と再疎通
に関する組織学的および定量的検討」
2.研究者氏名:大谷 浩、八田稔久、橋本龍樹、宇田川 潤、直良博之、帯刀禮子、佐藤文夫、松本暁洋
3.研究概要
(目的) ヒト十二指腸の発生において、消化管の内腔が上皮細胞により一過性に閉鎖し、後に空胞形成から再疎通
に至ることは知られているが、その機序についてはまだ不明な点が多い。各発生段階におけるヒト胎児十二指腸の形態を詳細に観察することにより、この現象の機序を解明することを目的とした。
(方法) ヒトの初期発生段階の形態指標であるCarnegie stage においてstage
13〜22(CRL 3.9〜28.0 mm, 第5週〜第9週)のhuman embryoを用いて、光学顕微鏡(LM)、走査型電子顕微鏡(SEM)による形態学的観察を行った。さらに、各発生段階における十二指腸上・中・下部の上皮管の横断面
積、横断面あたりの上皮細胞数などについて光顕レベルで定量的観察を行い、十二指腸の発生過程における形態学的変化、閉鎖と再疎通
について検討した。
(結果) (1)十二指腸各部の形態変化について
十二指腸上部では内腔の完全な閉鎖は認められないが、Stage 14〜15で上皮管径の縮小と内腔の狭小化を認め、Stage
16以降もともとの内腔以外に複数の空胞形成が始まる。発生が進むにつれてそれぞれの空胞が拡大・融合し、Stage
22までには1つの内腔をもつ、より分化した形態の消化管が形成される。
十二指腸中部(図1)と下部では、多くの場合中部はStage
16、下部はStage 17で内腔の閉鎖を認める。内腔閉鎖時、上皮細胞の配列は不規則になり、また、中部は特に上皮管径が小さくなる。その後、十二指腸中部では、Stage
17から空胞形成、Stage 19から間葉組織の浸潤、Stage 20から再疎通の完了を認める。十二指腸下部では、それらの形態変化は概して中部よりstage1つ分遅れて観察される。最終的にStage
22にはすべての部位で再疎通が完了する。
このように、内腔閉鎖・空胞形成・再疎通といった上皮の形態変化は、十二指腸の
上部から下部へ(吻側から尾側へ)と流れるように起こる傾向があることが確認された。
(2)十二指腸の分化 ― 絨毛, 微絨毛の形成について
絨毛の形成は間葉組織の上皮内への浸潤から起こってくると考えられる。間葉組織の浸潤はStage
19にわずかに認められ(図1 矢印, 図2 星印)、空胞の拡大とともにその深さを増し、絨毛の原型として認められるようになる。Stage
22で空胞は融合し内腔は1つになり、絨毛が明瞭に観察される。絨毛下の間葉組織には小血管が豊富に存在する(図1,
2 - Stage 22)。なお、間葉組 織の浸潤は、隣合う2つの空胞間の上皮下から起こる傾向があり、その後それぞれの空胞が拡大してくるに従い、空胞間の位
置にある間葉組織の浸潤はその深さ、大きさを増すようである(図2)。
SEMによる観察から、十二指腸内腔表面の微細構造の変化については、Stage
15(内腔閉鎖前)で多数認めた球状〜嚢胞(bleb)状の突起が、Stage 18(内腔閉鎖後)では、桿(rod)状の突起へと変化しており、微絨毛の分化が進行したことが示唆された。

(3)定量的観察による形態変化の検
十二指腸の発生においては、以前から、内腔閉鎖の時期に上皮組織の増殖が進み、その後空胞形成から再疎通
が起こる時期に細胞死が多くなる、という説が一般的である。本研究ではStage
14からStage 16にかけて内腔の狭小化〜閉鎖の起こる時期に上皮管径, 上皮横断面
積は縮小 (図3A)、1横断面あたりの上皮細胞数も減少しており
(図3B)、Mitosisの頻度も高くはないことが確認された
(図3C)。また、このとき横断面における上皮細胞核の形が円形に近づき、その配列が不規則になることが観察された。以上のことから、内腔閉鎖は上皮細胞の増殖が高まるために起こるというよりは、上皮細胞の配列の変化や上皮管が細くなることによるところが大きいと考えられた。
空胞が形成〜拡大し、間葉組織の浸潤が進む時期であるStage 17〜21にMitosisの頻度はやや高く、上皮細胞数も増加がみられたが、Apoptosisの頻度には目立った変化はみられなかった
(図3D)。したがって、空胞の形成はApoptosisが起こった後の空間から始まると考えられるが、空胞の拡大にはApoptosisよりも他の機序、例えば空胞内への分泌物の貯留、上皮組織の管径拡大方向への増殖などの関与が示唆された。
4. 学会機関誌発表状況
1. Akihiro Matsumoto, Koji Hashimoto, Takafumi Yoshioka and Hiroki Otani:
Occlusion and subsequent re-canalization in early duodenal development
in human embryos: integrated organogenesis and histogenesis through a
possible -mesenchymal interaction. Anat. Embryol. 205:53-65, 2002
2. 橋本幸直、松本暁洋、大谷 浩:ヒト十二指腸の発生における閉鎖と再疎通
に関する組織学的および定量的検討.第106回日本解剖学会、南国市、2001年4月
1.研究テーマ(3):疾患における発生要因の発生工学、遺伝子工学の医学的応用による実験的検索 「胎生期におけるレプチンの機能の解析」
2.研究者氏名:大谷 浩、高橋 敬、八田稔久、橋本龍樹、宇田川 潤、直良博之、籠橋有紀子
3.研究概要
(目的) 成人および成獣において脂肪細胞から産生されるレプチンは、食欲抑制などの作用を有する。一方、マウスにおいては、胎生期にも胎盤を含む様々な組織からレプチンが検出されている。また、我々のこれまでの研究から、マウス胎児の中枢神経系において、既にレプチンレセプター(ob-Rb)が発現していることが確認された。これら結果
は、レプチンの胎児発生、特に中枢神経系の発生への関与を示唆している。そこで、中枢神経系発生におけるレプチンの機能を調べるため、マウス胎仔脳室内にレプチンを注入し、中枢神経系における変化を形態学的に解析した。
(方法) (1)胎生14から16日の自然交配によるC57BL/6J(以下B6と記述)マウス胎児を用いて、正常な胎児血清中のレプチン濃度を測定した。
(2)レプチン欠損マウス(ob/ob)は不妊であるため、偽妊娠ICRマウスにob/obおよびB6の受精卵を移植して得られた胎児を用いて、以下の実験を行った。
(i) 胎生16および18日のob/ob胎児のレプチン濃度を測定し、母体に由来するレプチンが胎
盤関門を通過するか否かを調べた。
(ii)胎生18日のob/obおよびB6胎児の頭殿長・体重、視床・中脳上丘・小脳の最大幅、およ
び腹内側核・顔面神経核の体積を比較し、レプチン欠損による発生への影響を検討した。
また、子宮外発生法を用いて、胎生16日のob/ob胎児脳室内にレプチン(200 ngまたは1
mg) を注入後、胎生18日に上記と同様の計測を行い、レプチン投与による発生への影響を検討
した。なお、コントロール群には溶媒のみ(クエン酸ナトリウム+リン酸緩衝液、pH
7) を注入した。
(結果) (1)B6では胎生14〜16日に約1 ng/mlのレプチンが血清中に認められた(図1)。
(2)ICRに移植されたob/obマウスでは、血清中にレプチンが検出されなかった(図1)。この結果
、レプチンは胎盤関門を通過しないことが明らかとなった。
(3)胎生18日における胎児の頭殿長・体重、中枢神経系の形態は、ob/obおよびB6との間で差は認められなかった(表1および2)。したがって、胎児期におけるレプチン欠損は、形態学的に大きな変化をもたらさないと考えられる。また、ob/ob胎児に溶媒のみを注入した対照群に比較して、レプチン投与群では頭殿長および体重に差は認められなかったが、視床・中脳上丘・小脳の最大幅は小さくなっていた。しかしながら、腹内側核および顔面
神経核の体積には変化は認められなかった。視床・中脳上丘および小脳は、胎生16日ではまだ発生途中であるため、レプチンは発生途上の神経系細胞の増殖を抑制する可能性があることが示唆された。
| 表1 胎生18日におけるB6およびob/obマウスの頭殿長および体重 |
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(n)
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頭殿長(mm)
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体重(g)
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ob/ob |
(8)
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22.9 ± 0.7
|
1.19 ± 0.12
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B6 |
(7)
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23.1 ± 1.4
|
1.19 ± 0.11
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数字は平均値±標準偏差
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4. 学会機関誌発表状況
1) Akihiro Matsumoto, Toshihisa Hatta, Kenji Moriyama and Hiroki Otani:
observation of exencephaly and subsequent morphological changes by mouse
exo utero development system: analysis of the mechanism of transformation
from exencephaly to anencephaly. Anat. Embryol. 205:7-18, 2002
2) 宇田川 潤、籠橋有紀子、橋本龍樹、木原勇夫、大谷 浩:胎生期におけるレプチンの機能の解析.
日本先天異常学会、横浜市、2001年7月3日〜5日
3) Akihiro Matsumoto, Toshihisa Hatta, Kenji Moriyama, Jun Udagawa, Ryuju
Hashimoto, Yukiko Kagohashi and Hiroki Otani: Transformation from exencephaly
to anencephaly analyzed by mouse exo utero development system. 14th International
Congress of Developmental Biology, Kyoto, Japan, July 8-12, 2001
4) Yukiko Kagohashi, Jun Udagawa, Ryuju Hashimoto, Toshihisa Hatta, Akihiro
Matsumoto and Hiroki Otani: Embryo transfer analysis of environmental
factors in the autoimmune insulitis of NOD mice. 14th International Congress
of Developmental Biology, Kyoto, Japan, July 8-12, 2001
5) Jun Udagawa, Akihiro Matsumoto, Toshihisa Hatta and Hiroki Otani: Effect
of leptin on developing mouse brain. The 3rd Asian-Pacific International
Congress of Anatomists, Ham amatsu, Japan, March 29-31, 2002
6) Yukiko Kagohashi, Jun Udagawa, Ryuju Hashimoto and Hiroki Otani: Investigation
of environmental factors related to the onset of autoimmune insulitis
in NOD mice by embryo transfer analysis. The 3rd Asian-Pacific International
Congress of Anatomists, Hamamatsu, Japan, March 29-31, 2002
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